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先天性異常症候群に生まれて。石田 祐貴氏

皆様は「トリーチャーコリンズ症候群(Treacher Collins syndrome)」という疾患をご

存知でしょうか?トリーチャーコリンズ症候群とは、先天性異常症候群の一種で、出生率

は約 1~5 万人に 1 人の割合といわれており、顔面の骨の形成不全が典型的な症状としてみられる遺伝子疾患です。これが私の病名となります。


個人差はありますが、頰骨や下顎骨の形成不全、外耳の奇形、外耳道の閉鎖、下眼瞼の

欠損等の特徴がみられ、聴覚障害や呼吸障害、発音障害、口蓋裂等の障害を併発する割合

も高いことが医学的に示されています。何よりも一番の特徴としては、掲載されている私

の顔写真を見ていただいてもわかる通り、特徴的な顔貌になることでしょう。普通に街中

を歩いているときでさえ、他者から好奇な視線がそそがれることが多くあります。初対面

の人に避けられて人間関係が築きにくかったり、子どもから心ない言葉を直接投げかけら

れたりといった経験も少なくなく、自身が子どもの頃には、心の整理がつかず、そのよう

な現実をなかなか受け入れられない辛い時期も過ごしました。


「見た目が9割」といわれるように、顔が第一印象やその後の関係、評価に与える影響

は少なくありません。また、「イケメン」や「美人」といった印象を判断する現代社会の

基準となっているのは、メディアや SNS 等の影響を受けて作られる価値観であり、これら

は無意識のうちに我々の中で形成され、社会に根付いています。このような外見至上主義

が強く残る社会は、特徴的な顔である私のような人々が抱える生きづらさを一層助長する

こととなります。


ひとりひとり違っていて当たり前のはずである”顔”なのに、なぜ私のような顔だと好奇

な視線が向けられ、時には差別や偏見まで引き起こしてしまうのでしょうか?近年、生ま

れつきのアザや形成不全、あるいは事故や病気による傷、火傷、脱毛等、「見た目(外見

)」の症状がある人たちが、「見た目(外見)」を理由とする差別や偏見、いじめといっ

た社会で直面してしまう問題を「見た目問題」と総称し、問題提起がなされています。人

権問題の一つとして取り挙げられることもあり、メディア等からも注目されつつあるテー

マとなっています。


この問題は、今後の社会目標として掲げられている「ダイバーシティ」や SDGs で掲げ

られた目標の一つ「人や国の不平等をなくそう」にも関わる問題でもあると考えます

。2022 年の新語・流行語大賞に「ルッキズム」がノミネートされたように、近年では我が

国においても、外見のみを重視して人を判断したり、容貌や容姿を理由に差別的な扱いを

したりすることを問題視する考えも徐々に広がりつつあると思います。さらにテレビでの

容姿いじりが少なくなったり、ミスコンのようなイベントも変わりつつあったり、社会も

変化しつつありますが、人々の意識レベルではまだまだ根強く残っているように感じます

。「見た目問題」は、意識的には見た目で評価していないつもりでも、無自覚に見た目で

差別や偏見を持ってしまうケースも多く、根本的な解決が難しい、人間の本質にも関わる

ような深い問題でもあります。


大会講演では、生まれつき特徴的な顔で生きてきた私のこれまでを振り返りながら、自

分の”顔”に対する向き合い方の変容や「見た目問題」に対する考え方についてお話させて

いただきたいと思います。さらに新型コロナウイルス感染症の影響によるマスクの着用

、IT 技術の進歩によって普及した顔認証等、近年の社会変化との関連にも触れつつ、大会

参加者の皆様と共に「顔学」ならびに学術研究の視点から、特徴的な顔にまつわる事柄に

ついて考えていければと思っております。(石田 祐貴)

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プロフィール




(いしだ ゆうき)

筑波大学人間系研究員・筑波大学人間総合科学研究科博士後期課程


1992 年に大阪府にて生まれる。生まれつきの顔面の骨の形成不全が特徴的な症状として

みられるトリーチャーコリンズ症候群の当事者。現在は筑波大学で障害科学を専攻し、聴

覚障害児・者の教育・心理に関する研究に取り組む。研究活動に励む傍ら、これまでの自

身の経験を通じて、見た目問題や聴覚障害に対する社会的な認知度・理解の向上を目指し

た啓発活動にも尽力する

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